RanQ

Pixta 22720139 m

ベーシックインカムの財源は確保できるのか?

  • Thumb img 0691
  • 2
  • 159View

フィンランドでは、試験的なベーシックインカムの導入から半年経ちました。まだ明確な結果は検証できていないようですが、ヒアリングによれば職業選択におけるストレスが減ったとの報告があります。ベーシックインカム試験導入以前では就職活動の際に、社会保障面で不利になる(カットされる)職業を選ぶことを除外してしまうことがあったが、そういったことを考慮しなくなったことによって、安定した職を選べるようになったとのこと。

 

さて、民進党の松尾勉さんが、全成人に毎月8万円配布のベーシックインカムを提案するという記事を先日寄稿しました。

記事の中で松尾さんは日本こそ世界に先駆けてでベーシックインカムを導入すべきであると、やや興奮気味に語っています。

しかし、そもそもベーシックインカムとはどういった社会保証システムなのでしょうか?

1 ベーシックインカムとは

ベーシックインカムの構想は、元々は経済学者のミルトン・フリードマンが提唱したもので、社会保障制度を一本化することで小さな政府を実現することにあります。国が国民一人一人に対して毎月決まった額の所得保障を行うことによって、複雑な社会保障制度をスリム化し、国民は職業の選択を自由に選べるようになります。働きたくない人は働かずに過ごすことができ、働きたい人は就職する中でより高い収入を目指すことができます。

このベーシックインカムの構想の根底には、フリードマンの「自己責任」「自由競争」といった考えがあり、アマルティア・センの潜在能力へのアプローチに通じるところもあるでしょう。

つまり、福祉が所得の給付や食料・医療サービスの提供=すなわち"施し"をメインとするのに対し、ベーシックインカムは、個人が貧困に陥ることを自ら防止するための生活基盤を形成するための環境作りに力点を置いているところがポイントです。

 

2 ベーシック・インカムのメリットは?

導入のメリットとしては、ベーシック・インカム導入論の先頭に立ってきた小沢修司氏が明確に述べているので紹介します。

 

第1に,所得保障が性別や結婚,就労の如何を問わないことで,性別分業にもとづく「稼ぎ手と しての男性+専業主婦としての女性」で形成される家族像の呪縛から解き放たれる。

 

第2に,社会的貢献活動や文化・芸術活動など,これまで経済的に評価されないために十分な発 展がのぞめなかった領域が活発になることが期待される。

 

第3に,労働市場の二重化によって不安定度が強まっている労働賃金に依存する生活から人々が 解放される。

 

第4に,これまでの所得保障につきものであった資力調査によるスティグマや「失業と貧困の罠」 から社会保障制度を抜け出させ,社会保障において永らく争われてきた選別主義か普遍主義かの議 論を終わらせる。


第5に,現行の個人所得税制で生活保障のために採用されている各種の所得控除をなくすことに よって税制と社会保障制度の統合化がはかられる。 第6に,セイフティ・ネットの考え方が変化し,個々人は自分の人生設計に応じて就労による金 稼ぎや社会貢献,生活の質の向上といった多様な道を選択できるようになる。

3 果たして財源はどうなるのか

課題となるのは財源です。

仮に日本で一人あたり7~8万円月に給付するとなると、一人当たり年間で約90万必要となり、人口を掛けると108兆円毎年ベーシックインカムのコストがかかります。それをどこから補うのか。

ベーシックインカムの学者は消費税を30%以上に引き上げれば 80兆円近くの税収を補うことができ、加えてベーシックインカムでスリム化される分の手当を含めれば、十分に実現可能だと主張しています。

ですが本当に実現可能なのでしょうか?

日本の場合、財政難の背景には「利子」の問題があります。これを解決しないことには、増税したところでそちらに消えてしまうことでしょう。

加えて、ベーシックインカムで一本化は現実的なのかという問題です。

"生活に足る"水準の所得給付は、当然のことながら人によって、年齢によって、住んでいる場所によって異なるわけです。

地域よりも都心、子供よりも年長者、健常者より特別なニーズを抱えた人の方が生活費はかかるはずです。それらを考慮するためには、細かく所得給付額を分ける必要があります。

しかし細かく分ければ分けるほど、現状の社会保障制度に近くなり、当初の一本化のコンセプトから離れていき、行政の負担は増えていきます。

そして、何よりも生活の所得保障だけで十分なのか、という問題が残ります。現物のサービス、すなわち病院や保育所、介護施設など、そういった施設・サービスが整備されていなければ、所得が保障されていても"生活に足る"とは言えません。

無医村の問題や、待機児童の問題が解決してない中でベーシックインカムを導入しても、それは片方の車輪がかけた車のようなものなのです。

 

4 現状の社会保障制度は破綻しつつある

そうは言っても、現状の社会保障制度は、少子高齢化のアンバランスによって破綻寸前にあります。

平成14年では869,637世帯の生活保護受給世帯数が、平成28年1月には1,624,895世帯とここ15年近くを見ても急上昇している一方で、自力で働いているワーキングプラ層の収入よりも、生活保護受給額の方が多いというちぐはぐな問題が生じていたりします。

ベーシックインカムには課題が山積みではあるものの、現状の社会保障はもうほっておける状況ではないでしょう。

 

フィンランドの社会実験だけでなく、オランダのユトレヒトでの試験導入、ブラジルの「市民ベーシックインカム法」、アメリカのマイナス所得税、イランでの現金補助制度など、ベーシックインカムに関連する制度設計や社会実験は、世界を見渡せば各地で行われています。

 

日本でも非現実的と切り捨てることなく、慎重に検討し、積極的に導入実験を行うことが求められていることでしょう。