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次の乳児ボツリヌス症による被害が防げない理由

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東京・足立区の生後6か月の男の子が、離乳食として与えられた蜂蜜が原因と見られる乳児ボツリヌス症で死亡したというニュースが発表された。乳児は生後4ヶ月ごろから、市販のジュースに蜂蜜を混ぜて与えられており、2月20日にけいれんや呼吸不全などの神経症状が出て入院、ボツリヌス菌が原因の「乳児ボツリヌス症」と診断され3月30日に亡くなった。

乳児ボツリヌス症で全国初の死亡例 蜂蜜が原因か 東京

蜂蜜食べ乳児ボツリヌス症で死亡 危険な食品、ほかにも

 

ボツリヌス菌とは、土の中などによく見られる菌であり、酸素が少ない環境下*1でもよく生育する菌(嫌気性菌という)である。

ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素は神経の働きを阻害し*2、嘔吐や言語障害などの神経症状をきたし、重症な場合には筋弛緩や呼吸筋麻痺によって死亡する。

乳児ボツリヌス症は、このボツリヌス菌が、まだ腸内細菌叢が安定していない生後1歳未満の乳幼児において、ボツリヌス菌が乳児の腸内で繁殖し、毒素を産生することによって引き起こされる食中毒である。

*1 レトルトパックや瓶の中など。
*2 末梢の神経筋接合部にて、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害する。

1 クックパッドに飛び火。散見される危険なレシピ

この乳児ボツリヌス症については、小児科専門医の岡本 光宏氏が詳細にまとめているので下記リンクを参考にしてもらいたい。

岡本氏は、日本では乳児ボツリヌス症の診断が非常に難しいことを指摘した上で、多くの症例が乳児突然死症候群として見逃されている可能性が高いのではないかと述べている。

また、「一歳未満の乳児へのはちみつ=殺人」という過度なイメージが先行し、実際の死亡率や乳児ボツリヌス症を引き起こす他のリスク因子が目立たなくなってしまうことに警笛を鳴らしている。

乳児ボツリヌス症による初めての死亡報告で考えるべきこと。

母乳もリスク。乳児ボツリヌス症の全体像を考える。

多くの乳児ボツリヌス症は蜂蜜と無関係。寄与リスク0.0225%。

 


今回の事件を期に大手料理レシピサイトであるクックパッドが非難を受けている。

「はちみつ」「離乳食」のキーワードをクックパッドで検索するだけで147件のレシピが出てくるという。

それらのレシピの中には、一歳未満の赤ちゃんに与えてはいけないといった注意書きすらないものも散見されていた。

このことに対してクックパッドはヘルプページにて注意喚起をしており、「食の安全に関する発信をさらに強化し、皆様の知見の向上を一層サポートさせていただく所存です。」と述べている。

今後、これらのレシピはおそらく削除される方針となるだろう。

離乳食にはちみつで男児死亡 「クックパッド」のレシピをめぐり物議

はちみつの摂取が原因と推定される“乳児ボツリヌス症”につきまして クックパッドヘルプ

 

2 生豚肉のユッケ!?食中毒は自己責任!?

果たしてこの問題は解決したと言えるのだろうか。

今回の事件の本質は、はちみつを離乳食として与えたことでもなく、ボツリヌス菌でもない。

根幹の原因は、誤った食品衛生の知識が横行し、必要な人に必要な情報が行き届いていないということだ。

レシピサイトであるクックパッドはConsumer Generated Media(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア、略称:CGM)といって、消費者が自発的にコンテンツ(クックパッドでいえばレシピ)を生成していくメディアである。このメディア形態によってクックパッドのサイトにあるレシピコンテンツの総数は、2013年12月の時点で159万とも言われる。

調理の専門家がコンテンツを投稿している訳ではないため、その質はレシピによって大きく異なる。その質は、レシピを閲覧し実際に作ってみた人によって評価されることで担保される(つくれぽ。)という仕組みだ。

 

インターネット社会に置いては誰もが自由に情報発信することができるようになったが、その反面、無責任な情報もまた溢れかえるようになった。

クックパッドにおいては安全性の疑わしいレシピがはちみつ離乳食以外にも散見され、豚肉の生肉を使ったユッケのレシピなどにも批判が広がっている。

豚の生肉はカンピロバクターやサルモネラ菌による食中毒の危険性があり、豚肉は加熱をしなければいけないことは知っている人にとっては常識だろう。

しかし、「美味しんぼ」でも赤ちゃんに離乳食として蜂蜜を使用する場面が描写されて問題になったように、その業界においてどんなに常識であっても門外漢にとっては知らないものなのだ。

蜂蜜入り離乳食で乳児死亡、クックパッド「レシピ再確認する」…豚ユッケにも批判噴出

Ⅱ 離 乳 編 - 厚生労働省 

 

3 インターネット時代における自由主義経済と本当に有益な情報のジレンマ

以前DeNAのWELQという健康を扱ったキュレーションメディアが以前炎上したが、今尚、インターネット上には健康に関してありとあらゆる誤情報が溢れかえっている。

それらを一つ一つ検証し、不適切な内容のものを摘発するのは現実的だろうか。

 

Googleがフェイクニュースの問題を受けて、ユーザーが真偽牲を判断するシステムを導入したように、ユーザーの評価によって精度を補うのが現状の最善の余地なようだ。

そのうちAIによって真偽を判断していく方向にGoogleはアルゴリズムをさらに変えていくかもしれないが、現時点ではそれは実装されていない。

Googleでも厳しいのに、クックパッドが150万件以上のレシピの安全性を一つずつ検証することは現実として難しいだろう。

 

結局のところ、Googleもクックパッドも、他のあらゆるキュレーションメディアにおいても、消費者がまず賢く判断できるようにならなければ解決しないらしい。

 

WELQの炎上事件では、正しい医療情報を届けることの限界を感じた。

それはインターネット時代における自由経済主義と、ユーザーにとって本当に有益な情報のジレンマともいうべきものだった。

例えば、癌を患った人が治りたい一心で、検索窓に打ち込むキーワードは「癌」「完治」といったキーワードである。

他の例では、美容と肌に悩む女性が、脱毛症に悩む壮年男性が、Googleで調べる言葉は「肌」「蘇る」「ツルツル」であったり、「育毛」「効果」といったキーワードである。

しかし残念ながら、真っ当な医者や医療情報サイトは、「完治」といった言葉をやすやすと使わないものだ。

医療の情報はそもそも何が正しくて何が正しくないのか判断が難しい。現代の医療は専門性が高いため、医師免許を持っている人でさえ自分の専門以外の分野については判断が難しく、おいそれと見解を述べることができないのが実情である。まともな医者にとって、「完治」「治ります」といった言葉はかなり慎重に使いたい言葉ではないだろうか。

 

結果として、検索上位には上記のキーワードを多用したSEO(検索条件最適化)を狙った胡散臭いWELQの記事や、怪しい通販サイト・アフィリエイト記事で埋め尽くされることになったのである。

検索流入を増やしドメインを強いキュレーションメディアを育てるために、医学的に正しいかどうかは後回しにされたのだ。

これは、正しい情報やユーザーにとって本当に有益な情報が届かないのは、私たちユーザー自身が、情報の正確さ以上に"こうであって欲しい"という理想と欲求に基づいて、情報を求めていることを意味している。

WELQはこの人の抗えない欲求を逆手にとったに過ぎない。

4 インターネットの精度はまだこれから

インターネットの内外で、医療業界の人からしたら信じられないような情報を発信している人たちがいる。

医学不要論を唱えている内海総や、がん放置療法などを主張している近藤誠は、医師免許を持っていながら、エビデンスもなにもない、むしろ有害な情報を巻き散らしている。

彼らだけではない。酵素で健康になれると唄う人や、過剰なナチュラル主義の人、ワクチン接種の陰謀論を振りかざす人など、様々な憶測や主張がインターネット上には溢れている。

 

彼らは確かにひどいが、信じてしまう方も信じてしまう方である。

しかし、被害者の多くは藁をもすがる思いなのだ。

切実で、藁をもすがる思いだからこそ、情報を客観的に判断することができず、嘘に思える情報でも飛びついてしまう。

無責任な情報によって引き起こされる被害は、私たちが様々な欲求を持ち、それを逆手に事実と異なる情報を売りつける人たちがいる限り今後も繰り返されるのだ。

 

近年徐々に、正確な医療情報を届けようというサービスが登場してきた。"いしゃまち"や"MEDLEY"などがそうだ。

今後はGoogleのアルゴリズムは進化し、きっとこうした信頼性をベースとしたプラットフォームが検索上位に表示されるようになるだろう。

AIによるウェブサイト巡回が行われ、事実に反する内容を含むページは警告が表示されたり、閉鎖されたりするようになるかもしれない。

インターネットはまだ誕生して数十年だ。スマホが広く流通し誰もが記事をかけるようになったのはものの10年のことだ。まだまだインターネットの可能性は広がっていくだろう。

少しずつ、ユーザーのリテラシーが向上し、サイトの質が向上していけば、今回のような事件の再発を予防できるようになるかもしれない。

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